鹿児島県出水市の中でも山間部に位置する上場高原。秋になるとコスモスが綺麗に咲き誇る上場高原には多くの観光客が訪れますが、一方冬になると市街地とは気温も気候も同じ地域とは思えないほど厳しい環境になります。
そんな自然と一体となった場所でおよそ600頭の黒毛和牛を肥育しているのが、前田明宏さん恭希さん親子が運営する「株式会社まえだファーム」です。徹底した健康管理と頭数制限を行い、キメの細かい肉質と甘くて上質な脂の状態に仕上げることで農林水産大臣賞をはじめ、様々な賞の受賞歴がある「上場高原ビーフ」を出荷しています。
「株式会社まえだファーム」がいかにして「上場高原ビーフ」に辿り着いたのか。また事業承継を控えた前田さん親子のお互いへの想い、そして上場高原のこれからについてお話を伺ってきました。
戦後に開拓地として
私たちのルーツは、戦後の昭和22年頃に先々代がこの場所に移ってきたことに由来します。今では開拓四世になり少子高齢化が進んでいますが、畜産や茶農業という地場産業が確立されていることから後継者として若者が帰ってきてくれます。小学校は特認校になり、上場だけではなく出水市内に住む子ども達を受け入れて授業をしている状況です。
親子でやる強み
私は中学校を卒業する頃には「農業系の大学に行きたいな」という思いがありました。父が子牛市場や、枝肉市場などに連れて行ってくれて、それを見ているうちに『面白そうだな』という思いに自然となっていった感じです。開拓地としてここにやってきて、代々続けてきた話などを聞いて守っていかないといけない、と言う思いもあります。
以前は農協との共販体制でしたが、平成19年に株式会社まえだファームという名前で法人化し、今に至ります。
最近では地元の上場高原を少しでも盛り上げたいという思いから、「上場高原ビーフ」というブランド名でお肉やメンチカツを販売し始めました。メンチカツはお祭りやイベントなどに出店させて頂けるようになり出水市内外の方に少しずつ知ってもらえるようになったのかなと感じています。
また、色んなところで出店させて頂くことで地域事業者の方々の熱量を肌で感じられるようになったことは、これまで経験してこなかったことですし、とても貴重な機会だと思っています。
こだわりを試し続けてきた
和牛農家には大きく繁殖部門と肥育部門に分かれるんですが、まえだファームでは肥育部門をしています。まず10ヶ月くらいに育った牛を市場で購入してきます。
大きさで言うと200~400キロくらいです。そこから20ヶ月間まえだファームで肥育した牛を出荷しています。黒毛和牛の霜降り度合い(BMS)は12段階で評価されその中でもBMS12番が最高ランクとして評価されます。昔は中々出なかった12番が遺伝的な改良がされたり、管理をする環境や技術が向上したりして、昔に比べて出やすくなりました。ただ、最近では12番ほど霜降りは要らないというお肉屋さんもちらほら出てきていて、高い値段はつきますがお肉自体の好みは分かれてきているのかな、と感じています。
和牛農家さんには色んな考え方ややり方があると思います。父のこだわりはとても強く管理にはかなり手間がかかっています。楽をしようと思えばすぐできてしまう仕事ではありますが頑張れば頑張った分だけ牛が返してくれるのもこの仕事の魅力だと思います。「命を頂きながら仕事をしている」以上絶対手抜きはしたくないですし、景気や相場に左右されやすい業界だからこそ、ちゃんと利益を出して持続できる経営をしていきたいです。
理想の枝肉
実は40年この仕事をやってきてもゴールが見えていません。周りの肥育農家さんでものすごい枝肉を作ってくる人がいるんですよね。素晴らしい仕事をされているな、と感心する一方でその方を超える枝(肉)を作っていかないといけないな!と気持ちを奮い立たせています。
現場には80歳を超えても頑張っておられる先輩方もいるし、体が動くまでは理想を追い求めたいと思っています。
業界の高齢化
業界の課題として平均年齢が68歳と高齢化しているのは大きな問題だと思います。
特に後継者不足になっているところが多く、「牛を飼いたい」という若い人が増えない以上、平均年齢が下がることはないですし、食卓に並ぶお肉にもいずれ影響が出るんじゃないかと思っています。わかりやすい問題は2つあって、ひとつ目は「ある程度経験値が必要」と言うことです。生き物を扱っている以上不測の事態は付きものですし、評価していただけるお肉を作り上げるのもある程度技術が必要です。
またもう一つは「費用がかかる」という点です。出荷するまでに20ヶ月を要するので、売上が入ってくるのも20ヶ月後になります。その間に色々なリスクもありますから新規参入しずらいと言うのが現状だと思います。
上場高原をもっと楽しく
牛と向き合ってきたこの上場高原を客観的に見た時に異なる魅力もあるんじゃないかと最近考えています。上場高原はコスモスが有名で毎年秋になると多くの方が訪れます。ただそれはコスモスが咲いている時だけです。
コスモス以外にも大自然という真似のできないロケーションがあるので、例えば家族で来た際に、アスレチックなどを作って遊んでもらえる観光地にしたいという思いがあります。またジップラインなどをコスモスの上に通すことで今まで見たことのない視点から綺麗なコスモスを眺めて滑走できるアクテ ィビティなど面白そうですよね。またロケーションを活かしたサウナ施設やバーベキューできる場所なども良さそうです。本業をしっかりと軌道に乗せながら、まえだファームとしてこの上場高原で出来ることを、既成概念にとらわれずに考えて実行できると良いな、と思っています。
出水そしてLifenseについて
—–出水はどんなところですか?
出水市を盛り上げようとしてくれる人が沢山いる
—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?
鶴、武家屋敷、オレンジ鉄道、上場高原、ぬくもりの湯
—–読者の方に一言お願いします。
とりあえず一歩目を踏み出す勇気!!
DATA
株式会社まえだファーム
https://www.uwabakougen-beef.jp/
まえだファーム<Instagram>
@maedafarm1129
写真:柏木 直紀
文章:松島 晋也