山上博樹さん「ルーツを失くさない」

2025.06.02

長島町にある「日本マンダリンセンター」は、温州みかん発祥の地を記念して造られた、みかんの歴史・文化などを学べる「みかんの博物館」です。展示園には多くの柑橘を収集展示しており、果樹農家の研究などに活用されています。そんな日本マンダリンセンターを運営しているのは、同じ長島町で果樹園を営む山上農園代表の山上博樹さんです。

山上さんはストレートに農業に道に進んだのではなく、少し変わったキャリアをお持ちです。それは「教育分野」に長く携わっていたこと。教育業界大手のトライグループで役員まで務めた後に、40代での大きなキャリアチェンジを経て、実家のみかん農園を継承しました。現在は自然な栽培方法にこだわり、独自の販路開拓を行いながら、持続可能な農業経営を実践しています。またそれとは別に日本マンダリンセンターの5Fにコワーキングスペースを構築し、地域おこし協力隊の育成に携わっておられます。

本インタビューでは、教育事業で培った人材育成のノウハウと、農業経営における独自の哲学が融合した、新しい農業経営の形が見えてきました。規模拡大や利益追求に偏重せず、質の高い農産物の生産と人材育成の両立を目指す姿勢は、今後の農業経営のあり方に一つの示唆を与えています。ぜひご覧ください。

「家庭教師のトライ」を全国に

高校は出水高校を卒業し、福岡の福岡大学経済学部に進みました。大学在学中の3年生の時に兄が先に関わっていた縁で「家庭教師のトライ」のトライグループの創業に私も関わり始めました。その後福岡校の設立に携わることになり、大学卒業後に入社した、という流れです。

「家庭教師のトライ」の事業形態としては家庭教師の派遣事業です。一般的な事業所の店長に当たる正社員が1名いて、あとは大学生のスタッフ15-20人で運営する特殊なスタイルでした。なるべく優秀な学生を集め、通常の会社と同様の業務をこなしていました。

その後、20代は「家庭教師のトライ」を全国に展開していく為に全国を飛び回る生活を送り、33歳の時にトライグループの取締役執行役員となり、トータルすると8年間様々なプロジェクトを社内外で推進していました。

役職が変わっても全国の現場に出たり、またそれと並行しながら部下の教育も行なっていました。ハードなだけでなく特に社員の教育はいつも難しい局面ばかりでしたが、その反面、彼らの成長を垣間見れた時にはこれまでの成果の手応えを感じましたし、一緒になって喜ぶ!という場面をありがたいことに何十人と経験させていただきました。

そこで感じたのはやはり「人を育てる」教育現場の面白さでした。今も自分自身の成果より、家族や社員、私の周りにいらっしゃる方々の成長や成果を共有する時は、自分自身の時よりも何倍も喜びを感じられます。

農園継承という決断

そんな流れで順調に仕事をしていながらも、40歳を迎える前後になってふと実家の「山上農園」のことが気になり始めました。正確にはずっと跡継ぎがいないことが気がかりではあったのですが、ただ単純にそれだけでは無く。トライグループで頑張ってきて、役職も頂いて、社会的には「出世した」とか「偉くなった」とか色々な評価を頂くことがありながらも、自分自身には全くそういう意識は無かったんです。

ただ、実家の「山上農園」がなくなってしまうことを想像すると、自分を育ててくれたルーツが無くなるということは今の「山上博樹」も存在しないことに気付いてしまって。「自分が無くなる」ということと等しい感覚を覚えた時に、「山上農園を継ごう」と決心しました。

そしてそれが、決して早い決断ではなかったからこそ、山上農園の経営スタイルとして足し算ではなく引き算の経営を心がけています。やらなくていいことは何かを常に考え、必要最小限の手間で自然な味を追求しています。ハウス栽培も雨を防ぐための補助的な手段として最小限に抑えています。農業関係の先輩方と栽培技術をはじめとするさまざまな話題について議論しますが、山上農園の場合は、事業拡大や出荷数拡大というよりも、なるべくこの長島の地を生かした自然な栽培方法や品質そのものを重視した果樹園として運営していきたいと考えています。現在もそうですが、そういった姿勢や品質に共感・ご納得されたファンの方々に毎年のように選んでいただけて私たち自身とても光栄ですし、そうだからこそ毎シーズン妥協しないものづくりに取り組めていると思います。

全国47都道府県における経験値

2013年から山上農園の代表をしていますが、JA共販体制から個販に移行し、WEBサイト構築、販路拡大営業を行って、現在は生産物の9割が自社販売になりました。

また2022年4月から日本マンダリンセンター指定管理者となり、同年8月からは(一社)ながしま大陸まちデザインの代表理事となり、地域おこし協力隊と共に町の課題解決やPR事業に取り組んでいます。

自社以外の活動に取り組むことになった経緯としては、20年以上勤務したトライグループでのすべての経験が大きいと感じます。全国47都道府県を全てまわり、20か所以上に暮らしたことで、地域特性や地域ごとの多様性を肌で感じることが出来ました。

現在のような活動を予期していたわけではありませんが、多くのプロジェクトを推進してきたことは、組織の作り方、仕事の進め方等、現在の様々な活動の基礎が学べたように感じています。

それ以外にも、農業関係団体の支部長、商工会の副会長(軽トラ市実行委員長)等、様々な役職を引き受けてプロジェクトを進める中で、出水地域や長島町の問題点や今後の課題が見えてきたことが、今の活動に通じていると思います。

これからのこと

具体的な数値目標は持っていませんが、関わる人たちをしっかりとサポートできる存在でありたいと考えています。まずは代表理事を務めている(一社)長島大陸まちデザインを、地域おこし協力隊退任後の受け皿とすべく、自主事業を拡大し、収入面でも安心して暮らせる環境づくりに取り組みたい、と考えています。

N高やZEN大学受入等の学生向けだけではなく、大人向けの農業漁業体験型観光プログラムの旅を通じて会社の収益性を上げつつ、国内外から多くの観光客に来てもらうことで町のPRに役立ちたいです。

また、トライ提携塾や検定試験講座等の教育事業に力を入れ、長島町の子供たちの潜在的な能力を伸ばしていきたい。地方にとっては、人口減問題が叫ばれる不利な環境の中において、長島町を若者や女性に選ばれる自治体にすることをテーマに活動していきたいと思っています。

出水そしてLifenseについて

—–出水はどんなところですか?

個人的には高校生時代に3年間を過ごした思い出の多い場所。また、様々な場所に行くにも交通アクセスが良く、北薩の中では一番暮らしやすい場所。自然、文化、食…どれをとっても素晴らしいものがある場所。自身の仕事である農業関係の仲間も多く、畜産、柑橘、露地野菜等、農業が盛んで、新規就農者も増えてきている活気ある場所。

—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?

長島町おすすめは「stop by」、日本マンダリンセンター、長島大陸市場食堂等。景色も良くドライブに最適。釣りスポットも多い。出水市だと武家屋敷がおすすめ。

—–読者の方に一言お願いします。

「仕事を面白くするのは、自分だ」

DATA

山上農園
https://yamagamifarm.com/

日本マンダリンセンター
https://r.goope.jp/mandarin-center/

山上農園<Instagram>
@yamagami_farm

日本マンダリンセンター<Instagram>
@nippon.mandarin.center

写真:柏木 直紀
文章:松島 晋也

 

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