出水駅前の道をまっすぐ進むと程なく見えてくるブラウン色の壁と大きなガラスファサードを持つ建物が村岡歯科医院です。理事長でもあるお父様が38年続けてきた歯科医院と同じ場所に新たに建築し、事業承継を経てちょうど10年になる院長の村岡雅彦さんは出水市のご出身です。先代のお父様が紡いできた歴史を引き継ぎつつ、先進の設備を導入し「お口の健康を守るパートナー」「歯医者は人生を救う」をモットーに、丁寧な診療と治療で出水市をはじめとする地域への貢献を続けてこられています。
また近年では、出水駅近くにあった空き家をフルリノベーションし、地域コミュニティ施設とも言える「BASE&Co.」を開業。不定期で催されるポップアップストアやイベントはいつも大盛況。それだけでなくテナントとして入っている飲食店「うさぎ食堂」パーソナルジム「Merry Fitness」も大人気です。
一見するとかけ離れているようにも感じる双方の事業ですが、村岡雅彦さんの歯科医としての理念がいかにして地域社会への貢献に繋がっているのか。ユーモアたっぷりにお話を伺ってきました。
様々な場所と人、そして父
地元の出水高校を卒業後に長野の歯科大学に進学しました。長男だったこともありますが、小さい頃から歯医者って素敵な仕事だなぁと思っていたので、特に疑問を抱くこともなく歯科医への道を選んだ感じです。歯科大学は6年間だったのですが、その後の国家試験に実は一度落ちていて、東京で1年間浪人生活を送ったのちに国家試験に合格し、大阪で歯科医の仕事をスタートしました。
大阪で5~6年ほど勤務した後に、父の弟にあたる叔父が福岡の朝倉市でやっている「むらおか歯科医院」でも経験を積ませてもらいました。長野~東京~大阪~福岡と移動する中で出会った人たちから受けた影響が今の自分を形作っていると思います。
また父は6人兄弟で、先ほどお話しした叔父とは20近く歳が離れています。そのこともあって実は下2人の兄弟の大学費用を出していたようです。また、父は元々オランダで開業しようと準備していたらしいのですが、祖父に呼び戻されて出水で開業することになったことも後で知りました。
色々な思いや経験をした父が、そこから38年出水の地で歯科医療を提供してきた。そして10年前に「村岡歯科医院」を引き継ぐことのなったのですが、その際には私自身がやっていきたい歯科医院の在り方について一切口出しすることなく、快く委ねてくれたことは純粋に嬉しかったですし、今でも感謝しています。
人生を救う「8029」
村岡歯科医院では「自分の歯で食べることを楽しんでもらいたい」と思いながら治療にあたっています。父の時代を含め、たくさんの患者さんに通っていただいていますが、医療人として丁寧に診察することはもちろん、新しい設備や治療スキルを提供していきたいと思っています。昔だったら「痛いのはしようがない」とか「全部抜いて入れ歯にしましょう」という判断をするところでも、今なら「なるべく痛みが少ない方法にしましょう」とか「ご自分の歯を残しましょう」という判断ができたり、そこに付随する知識の提供ができます。
医者は「命を救う」一方で、歯科医は「人生を救う」とも言われます。自分の歯で食べ続けられることで人生が楽しく豊かになる、と言う考え方です。このことから、当然のことですがよく考えずに安易な判断をするのではなく、一人一人と向き合って最善の判断ができるように心掛けています。歯科医の業界ではよく「80歳で20本の歯を残そう」と言う意味合いで車のナンバーを「8020」にするのですが、父の車のナンバーは「8029」なんです。訳を聞くと「80歳で肉(29)を食べよう」という意味のようです。父なりに「人生を救う」を表した数字だなぁと。
「カッコつける」は「格好悪い」
色々な土地を渡り歩いてきた事で、自分とは異なる魅力を持った様々な人たちと出会ってきたことが今の自分を作っていると思うのですが、一方で人見知りで一人の時間が好き、みたいなスイッチが入ることもあって。明るいイメージを持たれていることが多いので、そこは期待を裏切りたくないな、と思っちゃうからやっぱり元気よく対応しちゃう。やっぱり好かれたいよなぁって。一期一会は大切にしたいと思っています。
誰しも若い時は少なからず「カッコつける」ものだと思うんですが、ある時「カッコつける」ことが「格好悪い」ことに気付かされました。自分にとってそれは大阪で過ごしている時でした。例えば、なんの変哲もない道端で突然つまづいたとします。本来それは「格好悪い」と思いがちなんですが、そのことによってみんなに笑いが起きる。そうすると自分にとってそれは「格好良い」出来事に変わるんです。
要するに仲間たちを楽しませる、喜ばせる、幸せにすることが「格好良い」な、と。それが自分にとってはすごく衝撃的で、その事に気付かされた時に自分の振る舞いや生き方がとても楽になったのを覚えています。馬鹿やって、笑いにして、自由にしている姿がとっても光っていて「格好良い!」って。
BASE&Co.
出水市には面白い活動や考えを持った方々が多い一方で、それならもっと色々なことが出来るんじゃないか?と思うことがあって。出水に帰ってきてからもそこにある種の勿体なさを感じていたので、単純にそういう人たちが集まれる場所があったら良いな!と思って「BASE&Co.」を作りました。
入ってくれているテナントさんも頑張ってくれているし、不定期に開催しているイベントにも遊びに来てくれる人が増えてきました。特に若い層の方々が定着してきているのは嬉しいです。そんな若者の中には、イベントの終わり際になると片付けを手伝ってくれる人たちもいたりして本当に感心しています。
「近頃の若いやつは…」っていうフレーズがよくありますが、普段から使わないですしそもそも好きではないですが、むしろその逆で、今の若者は丁寧で優秀な人が多いイメージです。そして優しさをすぐに行動に示すことができる。だからこそ「BASE&Co.」のような場所を使ってどんどん活躍の場を増やしていってくれたら嬉しいな、と思って応援しています。
SNSなどを通じて見てくれている知人の中には、「BASE&Co.は行きづらい」と言われることもあるのですが、一度来てしまえばその後通い出してくれる方々も多くいらっしゃいます。「楽しいことはおかわり自由」と言っているんですがまさにそうで、気になる方は気楽な気持ちで遊びに来てもらいたいです。
自分にしかできないこと
幸運な事に人との出会いに恵まれたおかげで、現在では色々な業界の方々と交友をさせていただいています。その交友関係の延長で、例えばスポーツ選手に地域のイベントにきて頂いたりして子供たちが目をキラキラさせて喜んで楽しんでいる。「BASE&Co.」にも共通の思いがありますが、そういった自分にしかできない「縁を繋いでいく」ことがこの地域への恩返しになったら良いな、と考えています。そしてそういった若い層が元気になっていくことはもちろん、それを応援する大人たちももっともっと楽しいことをおかわりしていってくれると良いな、と思っています。
出水そしてLifenseについて
—–出水はどんなところですか?
素敵な自然があり、農家さんもたくさんいて、人間もポテンシャル高い人が多い町
—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?
川端通り
—–読者の方に一言お願いします。
希望を抱いてください
DATA
医療法人 村岡歯科医院
https://muraoka-dental.net/
BASE&Co.
https://www.base-izumi.com/
村岡 雅彦<Instagram>
@mura.330
BASE&Co.<Instagram>
@base_co_izumi
写真:柏木 直紀
文章:松島 晋也