出水市の公会堂の敷地内に佇む蔵があります。その名も「anokura」(あの蔵)。その1F部分にテナントとして入居しているのが「ナミル衣料店」です。
ナミルとはアラビア語で「虎」。店主の村田将人さんの生まれ年とオープンした2022年が共に寅年ということでこの屋号に。
村田さんは出水市の隣市である阿久根市のご出身で阿久根市のアパレルショップ「LIZE(リゼ)」の2代目にあたります。すでに阿久根市でショップを構える村田さんがなぜ出水市への出店を決めたのか。
本インタビューでは、地方都市におけるアパレルビジネスの独自の課題がありながらも、地域に密着したきめ細かなサービスと、立地を活かした広域からの集客により、持続可能なビジネスモデルを確立できる可能性が見えてきます。
地方都市ならではの魅力を活かしながら、新たなファッションビジネスの可能性を追求していく村田さんに色々なお話を伺ってきました。
阿久根、福岡、そしてパリ。
実家は阿久根市で「LIZE(リゼ)」というアパレルショップを両親が営んでいます。しかし当時アパレルの仕事に就くことは全く考えていなくて。
出水高校を卒業してから、福岡の小倉リハビリテーション学院に進学して国家資格を取得しました。その後帰郷して出水市の吉井中央病院で4年間リハビリ職として勤務しました。とてもやりがいのある仕事だと感じる一方で、その重積も認識するようになって。
それから一旦違う道を模索してみようと思い立ち、ワーキングホリデーを利用してフランス・パリに渡りました。どの国に行こうか迷っていたんですが、結果的には1年間のパリ滞在を経て帰国しました。その頃には少しずつファッションで生計を立てていきたいと思い始めていたので、帰国後は福岡のジャーナルスタンダードで2年間の販売経験を積みました。
結局、阿久根に戻ってきたのは約8年前になります。はじめは実家の「LIZE(リゼ)」で販売の手伝いを始めましたが、既存客の高齢化に伴い、新規顧客の開拓が最重要課題でした。
そこで、より若い世代をターゲットにアプローチしたいと考えるようになり、2022年に出水市に新店舗をオープンすることになり、今に至ります。現在は地域密着型のアパレルビジネスを実践している最中です。
ワーキングホリデーで渡仏
ワーキングホリデーで渡仏したパリでの生活は「世界で暮らしてみたい」という夢を叶えるためのものでした。最初の3ヶ月はホームステイをし、その後はルームシェアなどで生活しました。言語の壁はありましたが、コリアンバーベキューという多国籍の店で働く機会も得たことで徐々に現地で暮らしていく自信を得ることができ、日常生活では苦労もありましたが、新しい環境で生きている実感があり、とても充実していました。
実はファッションの視点で渡仏したわけではなかったので当時意識はしていませんでしたが、ファッションに対する日常的な向き合い方を垣間見れたことは良い経験だったと思っています。当然みんながみんなオシャレしているわけでは無いのですが、ある通りに行くとズバ抜けて尖っているオシャレさんたちが集まっていたりして。驚きもありましたが、むしろ自分が暮らしている周辺にあった、年齢や性別を問わない無理のないファッションへの関心の方が大きかったように思います。
生活に寄り添った提案
出水市に構えたこの「ナミル衣料店」に関しては、お客様の生活に寄り添った提案を心がけています。
「ナミル衣料店」は都会にあるアパレルショップとは異なり、地方ならではのファッションの楽しみ方があることを伝えていきたいと常々考えています。
そのために「ナミル衣料店」では特に接客を大切にしています。お客様の中には「明確に欲しい商品」がある場合とない場合があります。それをクリアにしていく作業として、お客様の生活スタイルや希望、時にはお客様のクローゼットの状況などをカウンセリングのように丁寧に聞き取り、それらに合わせた提案を行うことを重視しています。
地方ファッションを押し上げる独自の魅力
地方におけるアパレル店舗の経営は、都会のそれとは異なる課題があります。そもそもオシャレをするシーンがあるのかないのか。地方ではトレンドに敏感でいたとしても、それらを着る機会や場所がないことから、「オシャレをする」こと自体への抵抗感もあります。
そう言った意味で、私たちのように地方でファッションに向き合っている人たちは、「服を販売する」こと以外への「服を着るシーンづくり」も大切な取り組みだと思っています。
ありがたいことに「ナミル衣料店」は遠方からのお客様も多数いらっしゃいます。「熊本から来ました」というお客様や「薩摩川内から来ました」というお客様もいらっしゃいます。車の移動圏内で言えば、熊本市内や鹿児島市内へ行ける距離と同じであるにも関わらず。
その経験から出水市は、北薩地区と南熊本地域のハブとなる位置にあり、独自の魅力とエネルギーがある、ということを地域の中心として機能している実感があります。この立地を活かしながら、地方ならではのファッションの提案を続けていきたいと考えています。
生活の深掘り
ファッションの提案は、都会と地方で全く違うことをこれまで色々な場面で痛感してきました。だからこそ今はそこが楽しい!と感じています。通ってくださるお客様の顔が浮かぶからこその仕入れができたり、地域特性を考慮した商品選定も楽しい。それは私たちの生活スタイルをより深掘りする作業でもあります。これからは、これまでのラインナップに加えてオリジナル商品の開発も少しずつ進めていきたいと考えています。まだまだブランド力を付け、たくさんの方々に知っていただいて実現していきたいと思っています。
出水そしてLifenseについて
—–出水はどんなところですか?
北薩地域、南熊本地域のハブ(中心) 県境にあるからこその独自の魅力とエネルギーがある
—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?
紫尾山(登山)からの紫尾温泉
—–読者の方に一言お願いします。
実際にその土地に観光で訪れるのと、住むのでは感じることは異なると思います。 出水の空気感や流れる時間など、ご自身の住んでる土地との違いを楽しみましょう きっと素敵な物やことや人に出会えるはずです
DATA
ナミル衣料店<Instagram>
@namilu_iryoten
写真:柏木 直紀
文章:松島 晋也