伊藤友弥さん「変化を恐れず挑戦する」

2025.04.07

20208月に天然酵母のパンとコーヒーを提供する店「おるがんと商店」を水俣市(熊本県)に開業した水俣市ご出身の伊藤友弥さん。20237月には隣町の出水市(鹿児島県)にかき氷とコーヒーを提供する「おるがんと氷店」をオープン。どちらも地産地消を大きなコンセプトに掲げながら、それぞれの店で異なる世界観を表現し、地域内外に関わらず遠方からもお客さんが訪れる人気店です。

水俣で生まれ育ち、大学では沖縄へ。そしてアメリカやカナダでの生活を経て帰国した伊藤さんがいかにして「おるがんと」を立ち上げ創り上げてきたのか。今回は出水市の店「おるがんと氷店」にてそのルーツを辿りながら、これからの展望に至るまでお話を伺ってきました。

コロナ禍で急遽方向転換

実ははじめは飲食業をやる予定ではなく、ゲストハウスやホステルといった宿泊業で開業する予定でした。水俣は町の歴史・背景もあって、水俣病を学ぶ方々が海外の方を含めて昔から多かったので、その方々と水俣の人たちが交流できるような場所があったら良いな、というイメージがありました。事業計画書もできていましたし、融資の話も決まっていました。またそこで働く予定の従業員の雇用も始まっていました。

しかし2020年にコロナ禍になり人の往来が世界中でなくなり、一気にインバウンド需要がなくなりました。

そのまま宿泊業で開業しても収入の見通しが立たない。そんな危機感から急遽飲食業に方向転換した、という経緯です。

ヘルシーなファストフードとかき氷

「おるがんと商店」と「おるがんと氷店」の2つに共通するコンセプトとしては、「地産地消」です。周辺地域の食材をできるだけ使ってお客様にご提供するということ。コロナ禍では外食する方も少なかったのですがコンビニに行く方はいる。そこで、地のものを使いながらコンビニよりもヘルシーな食べ物を、接触もできるだけせずに気軽に利用できるファストフード店をやろうと思いスタートさせたのが「おるがんと商店」です。また「おるがんと氷店」も同じくヘルシーで体に優しいというコンセプトなので、例えば練乳も全て手作りで白砂糖などを一切使わず、添加物も入れない工程で作っています。

私は学生の時に沖縄の大学に通っていて、将来ホステルをやるためにパン屋さんやコーヒー屋さんで働いていましたが、その経験があったからこそ急遽飲食業に業態を変えることができたと思います。その後発酵について学んだこともあり、天然酵母のパンとファストフードを掛け合わせてみよう、と。いざ飲食を始めてみると面白くなってきて、ホステルへの熱は今一旦落ち着いています(笑)自分で事業を始めてみて気づいたんですが、水俣には素敵なお宿も結構あるので、お客さんとして行っちゃうことで若干満足したところもあって。今は飲食業に100%振り切って運営しています。

ブルーグラスとの出会い

大学では農学部を専攻していました。農学部に進んだ経緯としては、将来的に国内のお金の価値が変動した時、生きていくためには農業の知識は必要だろう、という思いがありました。ただ沖縄の土壌と水俣の土壌が違いすぎて、学んだことが十分活かされてないというのが現状です(笑)。唯一長島は似てるなぁと感じていますが。

今思えば学業よりも音楽の影響の方が大きいです。地元水俣の高校生活の時から独学で三線を始めたこともあり、大学でも三線をやろうとサークルを見に行きました。「少し弾けます」といってお邪魔した三線サークルで恐縮しながら弾かせていただいたら、独学でやっていた自分の技術がサークル内ではビックリされるものだったようで、結果別のJAZZサークルに所属することにしました。そのおかげで街中で演奏することがあったのですが、そこで今度は「ブルーグラス」という音楽に出会うことになります。

はじめは何の楽器で編成された音楽か分からなくって。調べてみるとどうやらアメリカのアパラチア山脈周辺で発展したアコースティック音楽のジャンルということがわかりました。スコットランドやアイルランドの伝統音楽をベースに、バンジョーやフィドル(バイオリン)などの楽器で演奏される、いわばカントリーミュージックのルーツのようでした。

「ブルーグラス」の魅力にすっかりハマってしまったので、自分で新たにサークルを立ち上げたのですが、肝心の教えてくれる人がいない。立ち上げたからには自分が「ブルーグラス」を知らなければ!と思いたち、大学を休学して単身アメリカに渡りました。

アメリカからカナダへ。

アメリカでの生活は想像以上に大変でした。全く英語ができない状況で行ったので語学学校に通うことにしたのですが、借りた家からかなり距離がある。広大なアメリカの土地勘に慣れずにいたので車を買ったんですが、その車が原因で一時3ヶ月ほど家無しのホームレス状態になり。

その時にはもう「ブルーグラス」とか音楽どころではなく、生きていくことに必死でした。他のホームレスの人と仲良くなったりして町の状況を教えて頂きながら食い繋ぐっていう。

その後ワーキングホリデーで訪れたカナダで菅龍夫さんという方に拾って頂いて、当時菅さんがオープンしたての店のオープニングの時から携わらせてもらうことになり、外国の方にお寿司を振る舞うのですが、それが初めての飲食業の経験でした。

菅龍夫さんの元でもっと勉強したい!という思いから結局留学を1年延長して。大学に戻ったのが3年生なので2つ下の子達と一緒に大学を卒業しました。

ビジネスの土台

開業直前になって<宿泊>→<飲食>へと業態を変えることは正直大変だったんですが、先ほどお話ししたカナダの菅龍夫さんに叩き込んで頂いたビジネスのベースを元にチャレンジすることを決めました。菅さんがおっしゃるには、「まずは土台をしっかり作り上げることが出来れば、あとはITだろうが飲食だろうが、どの分野にいっても問題ないよ」と。その考え方を応用し業態を切り替えて運営し始めたのが「おるがんと商店」と「おるがんと氷店」です。

先頭ではなくサポートを

「おるがんと商店」を始める前、年末年始に同級生と集まった時に、海外での経験や事業を始めたいと思っていることを話している時に「一緒にやりたい!」と言い出した同級生がいて。お酒の席での話だったので本気にしてなかったんですが、10日後くらいに辞表を出して辞めてきた、と。結局、当時東京や大阪で勤めていた友人2人が合流したので、「これは本気でやらなければ!」と決意しました。

今ではどちらも独立していますが、同じように知りたい方・やりたい方などがいれば、私自身が教わったノウハウは全部包み隠さず伝えています。そうやっていて最近気づいたことは「私は先頭に立つタイプではない」ということです。自分のためには頑張れなくて、逆に誰かの目標のためのサポートが一番力を発揮できるし、やりがいがある。例えば、アルバイトの方は特に学生が多くてシーズンごとに入れ替わるのですが、入ってから卒業までの成長具合が凄まじい。見てても面白いし毎回こちらの学びにもなります。

※指先・手元は藍染作品制作中による着色です。

みんなでつくる

店のマニュアルとしては、スタッフみんなで作れて且つ家庭では再現が難しいオペレーションを組んでいます。スターシェフを雇うのではなくみんなで作る。変化のスピードが早い飲食業界で地域のお客様との繋がりを大切にしながら運営するために大切にしていることの一つです。またその事が、次の店舗展開を考えた時にもとても活かされてきます。水俣と出水は隣同士なのに何故か違いが多い。言葉や文化的背景が影響していると思いますが、次の店舗を作る時もこのエリアに作って、もっともっと町同士の交流を深めていきたいです。

お客様へのサービスとリアクションが、ダイレクトでスピーディな飲食業はとても楽しいですし、喜びも大きい。貢献といったらおこがましいですが、何か少しスパイスを加えて、雇用を増やしたり、学生が働ける場所を増やしてあげられたら、少しずつでも良い方向に変わっていくんじゃないかな?と考えています。

カナダ時代に天ぷらを揚げている時に「好きな子に食べてもらうと思って揚げてみて」って言われて、その通り揚げて出したら「これ誰が揚げたの?めちゃくちゃ美味しいじゃん!」と言われた事があって。飲食業は特にそういう目には見えないところでの、愛情や魂が伝わる瞬間が必ずあると思っていますし、従業員にも細やかなセンサーを働かせるように伝えています。私自身もそういう店が好きですし長続きすると信じています。「おるがんと」もそういう店でありたいですね。

出水そしてLifenseについて

—–出水はどんなところですか?

人のエネルギー地(漢気)が高くて熱い。
水俣の隣町だが、人々の活力のベクトルの違いをよく感じます。

—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?

水俣出身の私は、まだまだ知らないスポットが多いので、皆さん教えてください!!

—–読者の方に一言お願いします。

私の地元水俣はもちろん、出水も素敵な場所・お店・人々がたくさん。まだまだ知らないことがゴロゴロ眠ってるおもしろい地域だと思います。隣町なのに方言も全く違う(歴史的背景がこれまたおもしろいです)。もっともっと、いろいろな交流や交通手段等を通じてお互いの街の魅力を知ることができると、暮らしの中でちょっとした楽しみが増えるかなと。そんな架け橋の1つに、おるがんとのお店がなれたらなと思います!事業拡大に向けて求人募集中ですので、ピンときた方は是非ともお待ちしてます!! LOVE LOCAL!

DATA

おるがんと商店/氷店
https://oruganto.com/

おるがんと商店
COFFEE ROASTERY & BAKERY<Instagram>
@team_oruganto

おるがんと氷店
SHAVED ICE & COFFEE<Instagram>
@oruganto_hyoten

写真:柏木 直紀
文章:松島 晋也

 

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