津崎信乃さん「完成しないパズルも楽しい」

2025.03.24

昨年2024年秋、阿久根市折口を拠点に、ローカルアクティビティを提案しアウトドア体験ができる「Puzzle(パズル)」を開業したのは、福岡市出身の津崎信乃さん。元はガゾリンスタンドだった跡地を、当時の面影を残しながら見事にリノベーションして地域のコミュニティスペースとしても機能しています。学校の教員や競馬の厩務員、アウトドアメーカーのショップ店員や山小屋勤務そしてシーカヤックガイドなど国内外を行き来しながら様々な経験と知識を身につけて阿久根にたどり着きました。自分自身の経験はもちろん、自然のなかにある遊びや恵み、地域内でのローカルコミュニケーションを通して、津崎さんが日頃大切にしていること、そしてこれからの展望について伺ってきました。

パズルのたのしみ方

まずは屋号にしている「Puzzle(パズル)」について。実は25年前に生死を彷徨うくらいの大きな交通事故に遭ったんですが、その時にベッドの上で将来を考えていた時に浮かんだ言葉が「Puzzle(パズル)」でした。一人一人の個性をパズルのピースに例えると、家族や友達、一緒に働く仲間などそれぞれが持っている異なるピースが合わさることで、その時その時で異なるシーンがパズルとして現れる。そんなコンセプトが頭に浮かんで「コレだ!」となり、ずっと大切にしまっていた言葉です。

ただ「Puzzle(パズル)」が浮かんだ若い時には気づかなかったんですが、色々な経験をさせて頂いた今思うと、パズルは必ずしも完成しなくても良い、と思えるようになりました。ピースが揃わなくても抜けていても、不完全な状態を楽しむのも「豊かさ」かな、と。むしろパズルを完成させよう!と努力して進んでいるプロセスにこそ意味があることも多い。

経験しながら一緒に変化していける「Puzzle(パズル)」という言葉を、やっぱり気に入ってます。

リスナーツアー

体験型のアクティビティとしてある程度パッケージングされていた方がビジネスとしては効率化されて良いと思いますが、私は観光として規格化されたアウトドアツアーをやりたいわけではありません。例えば、奄美大島のマングローブを見たい!という希望があってそこに向かうのももちろん良いのですが、そこに至るまでに「どういうルートでいくか?」「誰といくか?」「どんなツールを使うか?」などお客様ごとに異なるニーズを掴んで、お客様オリジナルのストーリーを提供するリスナーツアーが「Puzzle(パズル)」のやっていきたいことです。

「何もせずただボーッと自然に身を委ねたい」といったニーズにも応えられる阿久根はリスナーツアーにとても適した場所だと思っています。なのでお問合せ頂いたお客様とは事前にしっかりとヒアリングをさせて頂いています。

教員から厩務員そしてアウトドア

元々は子供の頃からずっと学校の教員を目指していて実際に教員資格を取得して教壇にも立つこともありました。子供達と一緒に過ごす日々はとっても楽しかったですし、今でも先生という仕事を誇りに思っていますが、ある日「教員」という立場以外にできる「教育」ってあるんじゃないか?という心境になったことがあって。

九州出身の方によくあることかもしれないんですが、せっかく環境を変えるなら遠いところに行こう!となってその時の大学の友人が北海道の牧場で働いていたこともあり、すぐにアポを取って北海道へ向かいました。牧場主からの「ハードだからすぐに辞めて帰るよ」と言われた言葉がハングリーになり、最終的には認めてもらって競馬厩務員という面白い仕事に就かせて頂き、自身の人生の基盤となりました

その後はまた世界を変え、当時九州初出店だったアウトドアブランドmont-bellの立ち上げショップに勤務しました。その時の採用担当者の方に言われたんですけど、履歴書に「競馬厩務員」と書くとものすごく興味を引くみたいです(笑)

いつだって異国や自然が転機

そのmont-bellショップで働いている時に先ほどもお話しした交通事故に遭い1年半くらい仕事ができなかった。後遺症もかなり酷かったのですが、その後遺症のせいで「何もできない」と考えてしまう自分自身を払拭したい気持ちでいました。そんな時にふと世界地図を広げた時に「北欧で自転車の旅をしたい」と気持ちが芽生えました。

決め手として、その時の自分にとってちょうど良いサイズが「北欧」だったのですが、実際に旅をしてみると、ただひたすらに「幸せ」でした。毎日何か必ず起きるんですが、そのたびに“すごいな、本気で生きてるなぁ”って。特にフィヨルドを自転車で全速力で駆け抜けた時は達成感と共に涙が止まらなかったです。そしてこの旅は今後の私の人生観が大きく変わるきっかけにもなりました。

その後、北アルプスでの山小屋勤務や屋久島でのシーカヤックガイド、海外では北米でのロングトレイル、台湾、韓国、ペルーのトレッキング、コスタリカのラフテイング、シーカヤックなど多様なアウトドアアクティビティを経験させていただきながら、一方では東急ハンズでマーケティング職の知識を身につけたり。アウトドアの全般的なスキルを上げていくことに注力しました。

最終的にはアウトドアブランドのコロンビアスポーツウェアジャパンで九州統括マネージャーとして総合的なノウハウを学ばせてもらいました。その流れの中で更なる将来を考えた時、大きなブランドを背負わずにひとりの人間として「もっと地域に根付いたアウトドア活動をしてみたい!」「子供たちにも伝えていきたい!」と考えるようになり、ちょうどその頃知人に阿久根のことを教えて頂いて初めて阿久根を訪れました。実際に来てみるととりあえず漁船に乗るように言われて、向かったのは阿久根大島でした。そしてなんとシーズンオフを理由に帰りの船は無かったんです。ビックリしながら夜を明かすことになるんですが、この時の阿久根大島は小雨が降っていて。それがとっても美しかったんです。狙っていたわけではないと思いますが私自身は「よし、ここだ!」と阿久根に来ることを決めました。

インディアンの思考

その後阿久根の地域おこし協力隊に着任することになるんですが、実はその7ヶ月前に渡った南米にも強い憧れがあります。それは「今」という豊かさを大切にしているところ、です。例えば1ヶ月後のことを考えた時に「今日何をすべきか?」という準備をするのはとても日本人的だな、と感じたんです。豊かな今日という日を明日、明後日のために使う。私は日本人ですし私自身も普遍的にそう考えてしまうからこそ、「今」という豊かさを大切にする南米に憧れるし超えられないなぁと感じてしまいます。ただ、自然と遊ぶようにアウトドアしている時間は、これに近い感覚があると思っています。門限に気づかず一生懸命遊んでいる子供達みたいな。親しい友人には「インディアンの思考だね」と言われたこともあるんですけどね。

84歳のお客様と日本一周

阿久根で出会ったおじいちゃんが、60歳で定年退職後にお父さんの介護を10年、お母さんの介護を10年と過ごしているうちに80歳を超えちゃった、という話をしていて。聞くと「僕の夢は日本一周だったのにもう行けないなぁ」と話されていて。「大丈夫ですよ、行けますよ」と軽く声をかけていたんですが、後日広告のチラシの裏を使って、行きたい場所や通りたいルートなどを細かく書き出しているのを見て驚きました。「これは本気で夢を叶えてあげたいな!」と。とはいえ、体調のことを考えると無理はできないし、色々な準備をして、万が一の場合は途中で帰ってくることも視野に入れて出発しました。ちなみに納車5日目の私の車両で(笑)結局は3週間強で無事に日本一周を達成して帰ってくることが出来ました。今も「Puzzle(パズル)」にもよく来てくださるんですが「今度はここに行きたい!」と今まで以上により一層元気になっていますよ。

Puzzle(パズル)」は子供の頃からやりたかった「教育」にも繋がっていると今すごく実感しているので、子供達が夢中になってワクワクするアウトドアを一緒に生み出したい!と考えています。決められた体験をするだけじゃなく誰かのストーリーづくりに少しでもスパイスを加えられるような関わり方ができると嬉しいなぁと思っていますので、少しでも「こんなことやってみたいな」というのがあったらぜひ気軽に連絡していただきたいです。

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写真:早水 奈緒
文章:松島 晋也

 

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