東京都町田市ご出身の松木竜太郎さんが、出水市のお隣である阿久根市脇本で2022年3月にオープンしたのは、コーヒースタンド「ともまち珈琲」。全席が屋外になっているこの店の目の前に広がるのは海。そして地形上ほぼ毎日凪状態であるというその水面の上に浮かぶのは、この場所のシンボルとも言える無人島の「寺島」。「ともまち珈琲」のインスタグラムでは毎日のように「寺島」の様子が投稿されています。また「ともまち珈琲」の近くにはこの「寺島」の名に改名したと言われる、明治維新の立役者<寺島宗則>の旧家も現存しており<寺島宗則記念館>として館内無料で見学できます。そんな情緒も楽しめる「ともまち珈琲」のテラス席で、オーナーの松木竜太郎さんと一緒に店を切り盛りする鈴木晴子さんにお話を伺ってきました。
スパイス香るコーヒースタンド
<松木>
うちは基本的にはコーヒースタンドなんですが、スパイスも扱っていますのでチャイをお出ししたり、週に一回カレーをお出ししています。注文される際によく言われますが、スパイスの香りがすることでカレーの匂いがする!とおっしゃるお客様もいます(僕らにはもう匂いがわからなくなってるんですけどね)。また月に一回ですが、出水のhummeさんのパンを使った「ともまちバーガー」もお出ししています。hummeさんのパンが本当に美味しくって予約してくださるお客様もいるくらいです。
このように一般的なコーヒー屋さんとは少し違った業態で運営していますが、実は僕ら自身が一番楽しんでいるところでもあります。ただ悩みとしては、うちは全席屋外のテラス席になっていて夏は暑いし冬は寒い。「目の前に広がる海、そして寺島など自然と一緒に楽しんでいただきたい!」とは思いつつも、よく来てくださる地元のお客様に申し訳ないなぁ~と思うくらいの天気の日もあるので、何か対応策がないかな?と考えている最中です。そんな中、最近では県外のお客さんも来てくださっていて、特に熊本からお越しいただくことが多いです。またサーフィンを楽しみに阿久根に来られる方も多くて地元の方と県外の方が会話する場面も多く見られます。お客様同士が交流するのも「ともまち珈琲」の特徴の一つだと思います。
「出会い」の魅力
<松木>
この店を始めてからずっと感じている魅力はやっぱり「いろんな人に会える」というのが一番です。「まさかこんなところに、こんなに凄い人が来るなんて!」という瞬間がたくさんあります。そしてさらに驚くのは、その後数珠繋ぎのようにまた面白い人を連れてきてくださる。私たちはそんな出会いが大好きなので、単なる店主とお客さんという感じではなく長く話し込んでしまうことも珍しくありません。それは海外の方も例外ではなく、先日サイクリングで訪れたドイツ人の方と意気投合した後に夜ご飯にも誘って一緒に時間を過ごしました。その場には普段お世話になっている80代のおじいちゃん・おばあちゃんも居て「ドイツの人とお話しするなんて初めてじゃっど」と言いながらドイツ人の彼と仲良く交流していました。また別の日のこと、店では冬に焚き火をしたりもするんですけど、火を囲みながらコーヒーを飲んでいると知らない人同士でも自然と会話が始まるんですよね。その風景を見ていると、僕らが大好きで続けていきたいことがまさにそこにあるような気がしました。
海外での生活
<松木>
人と出会うこと自体に価値を感じ出会いが好きになったキッカケは、海外を含む様々な場所での生活経験から来ているかもしれません。東京の町田市が出身なんですが、父の転勤で八王子市の中学校へ、そして中学生の時に福岡市に引っ越しそのまま福岡の高校に進学、また東京に引っ越して東京の高校を卒業後、再度福岡の大学へ進学し中退。その後はインド・オーストラリア・カナダ・ニュージーランドを経て、現在に至ります。特に成人してからの20歳から30歳までの10年間は、家族の拠点がインドだったこともあり20代は海外で生活する時間が多く、そのような経験が今の自分を形づくってきた要因のひとつだと思います。特にこの「ともまち珈琲」の経営スタイルには大きな影響を与えてると思っています。
インドでは良い面もそうでない面も含めてたくさんのカルチャーショックを受けました。言葉にするのは難しいですが、飾らない・剥き出しの国民性というところに一番影響を受けていると思います。当時外国人は「自分とは全く違う考えの人」と言う風に捉えていたんですが、ちゃんと話してみて仲良くなると「なんか気が合うな~」「自分と近いかも!」「中学時代のあいつに似てるな」と自分ごとに置き換えて感じることができたんです。それはどの国に行っても一緒でした。まさしく友達が出来た!と感じられた瞬間。そうなった時には「もう日本には帰らなくてもいいかな」とさえ思っていたほどです。
帰国後に阿久根へ
<松木>
阿久根に辿り着いた経緯としては端的には父の実家です。なので実は子供の頃から毎年阿久根に来ていました。そんな中で父のインド駐在が終わり、インドから両親が日本に帰国することになるんですが、その場所に2018年にニュージーランドから帰省した、と言う流れです。ビザは2020年までだったのでもう一度ニュージーランドに戻る予定でしたが、道の駅のコーヒースタンド「Sunset & Coffee」の立ち上げに携わらせて頂きました。その最中にコロナ禍になったことで結果今も日本にいるという。ただ「Sunset & Coffee」での経験やたくさんの魅力的な地元の方々との出会いを重ねていくうちに「日本も楽しい!」と感じられたことが、この「ともまち珈琲」のオープンにも繋がっています。
<鈴木>
私はホテルのブライダルアドバイザーをやったり羽田空港で働いたりしていました。接客業をしっかり学ばせてもらったんですが、体調を崩した時期があって。その時に友人から「ヨガをやってみない?」と誘われて行ってみたら、その後すごく体調が良くなったことをキッカケに資格を取っちゃおう!というくらいヨガにハマりました。結局空港で働きながら資格取得するんですが、その後にヨガをしながらできる仕事ってないのかな?と考えるようになって。当時、ヨガスクールで出会った友人が東京・代官山の会員制レストランで働いていて「一緒に働かない?」と誘ってくれ働くことになりました。そしてそこのレストランで一緒に働いていた共通の友人がオーストラリアのバイロン・ベイに行ったことをキッカケに、バイロン・ベイはヨガの聖地と言われているし私も行きたいな、となって。訪れたオーストラリアで彼と出会いました。その後、ニュージーランド、カナダなどにも一緒に行くことなり、とうとう鹿児島にも一緒にやってきた、と言う感じですね。
今は普段「ともまち珈琲」にいますが、「Flat HOME ヨガと呼吸」という屋号で毎週水曜日にお寺でヨガも開催しています。お寺はやはり瞑想に適していて、呼吸や心身を整えるにはとっても良い時間なので、ご興味ある方はぜひ参加して欲しいです。
良き出会いをもっと
「ともまち珈琲」を始めてもうすぐ3年経つんですが、改めて僕らに出来ることは「繋ぐ」ことだと思っています。人と人が出会って何かワクワクするとか嬉しい気持ちになるとか、そう言うことが好きだし、得意なことかな?と思っています。むしろそれしか出来ないかも。美味しいコーヒーを淹れたい!というのはもちろん大前提としてありますが、それはあくまで人と人が出会うための良質なツールとして考えています。キッカケです。それ以上にこの先の「良き出会い」を提供できると良いなぁと考えています。
具体的な動きはこれからですが、将来的には「ゲストハウス」の運営をやってみたい、と思っています。コーヒースタンドよりも長い時間滞在できる場所があれば、今までとは違った形の「良き出会い」が生まれていくのではないか?とワクワクします。「ともまち珈琲」のあるこの場所は普段地元の人しか通らない場所で、空き家も増えてきています。しかし見方を変えればそういった空き家を活用して、旅をするお客様を温かく向かい入れる「ゲストハウス」に変えれる可能性があるかもしれない。また地元の人にとっても文化交流できる「ゲストハウス」が新しい世界の扉を開くかもしれない。ドイツ人と出会った80代のおじいちゃん・おばあちゃんのように。
そういった意味で、地域社会の課題と僕らがやりたいことが重なった時、自然な出会いをもっともっと喜べる場所づくりをしていきたいな、と考えています。
出水そしてLifenseについて
—–出水はどんなところですか?
となり町
—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?
Humme/出水市
TOFU STAND/さつま町
—–読者の方に一言お願いします。
免許取ったらドライブ休憩しに、ともまち珈琲に遊びに来てね!
DATA
ともまち珈琲<Instagram>
@tomomachicoffee
Flat HOME〜ヨガと呼吸〜<Instagram>
@flat_home_yoga_breathe
写真:早水 奈緒
文章:松島 晋也