出水の花屋の中でも異彩を放つKurk PLANT LEATHER (コルクプラントレザー)。その代表取締役を務めるのは湯川伸一さんです。いつも笑顔で温かな雰囲気をお持ちの湯川さんは実は様々な経歴をお持ちです。たくさんの経験をする中で、花屋という職業の奥深さに触れ感動したことが現在に繋がっているそう。また昨年まで本町で営業していた店舗を閉め、縁あって引継ぐことになった吉永園芸さんがある文化町に移転も完了。既存のお花屋さんの枠組みに捉われず業態を変化させながら、現在もまさに進化中です。ひとつひとつ自らの手で手繰り寄せながら進む湯川さんの力強さとは何か?そして湯川さん自身が望む波瀾万丈な半生の一端をお伺いしてきました。
就職・上京・ブルーマン
地元出水の高校を卒業した後、愛知県にある瓦製造の会社に就職しました。しかし実は高校生の時から東京に出たい思いがありましたので、愛知県への就職はお金を貯めるためでした。結果、計画的に貯金する事ができ1年程で上京することが出来ました。働くあてがあったわけではなかったのですが、先に東京にいる友人などを訪ねたりする中で、練馬区の畳製造の会社にお世話になることに。当時は他にパチンコ屋などでも働いていました。
ちなみに何故東京だったのか?というと、当時好きだったアーティストのライブなどがすぐ観れる、という単純なものでした。結局7年くらい東京にいたんですが、その内の2年間くらい「ブルーマングループ」の劇場で働く機会がありました。1991年に顔を青く塗った3人のメンバーが、アメリカ・ニューヨークのマンハッタンの路上でパフォーマンスをしたことから始まった「ブルーマングループ」が日本では2007年に初上陸した時期です。劇場の中で映像班に人が足りない、となり当時経験はもちろん興味もなかったのですが、面白そうだからやってみよう、となりお手伝いさせてもらうことにしました。
ライブやパフォーマンスを観るために上京しましたが、意図せず徐々にパフォーマンスを支える側の仕事をしていることにやりがいを感じ始めていたある日、姉から電話が来て地元にいる母の病気のことを知りました。「ブルーマングループ」からはもう1年やってほしい、という話でしたが、なんというか「こんなことしてる場合じゃない」といきなりスイッチが切り替わり、出水に戻ることを決めました。
帰郷して始めたバンドが花屋へ繋ぐ
出水に帰ってからは父の紹介してもらった会社に就職しました。とても良くしていただいたのですが、実は帰郷してから取り組み始めたバンド活動を理由に退職しました。当時やっていたバンドメンバーはみんな鹿児島市内在住だったので、出水で仕事が終わってから鹿児島市内に走り、スタジオに入って2時まで練習して帰ってくる、といった生活を繰り返していました。その生活が少しずつしんどくなり、母の病気も当時付きっきりというわけではなかったので、思い切って鹿児島市内に引っ越すことに。今考えるとひどいですよね。バンドを理由に辞めるって、お前何歳なんだよ!と。ただそのバンド活動を通じて知り合った別のバンドのフロントマンの方がお花を生業にしていて、いつしかお手伝いするようになりました。当然ですが、お花って扱うときに冷たくてイメージしていたよりもキツかったんですが、スーパーで売る時の見せ方だったり、数をあえて減らして並べてみたり、知らないところにたくさんの工夫と戦略があることを知って段々と面白さを感じるようになりました。
花を買うのは、お金じゃなくて心の余裕
そうするうちにわかってきた事があって。それはそもそも「余裕のある人しか花を買わない」という事。お金の余裕、という意味ではなくて、幸せそうな人としての心の余裕です。余裕があって豊かな人がお花を買うんだなって。友人たちも決してお金を持っているわけじゃないんだけど買いに来てくれる。その風景を見せてもらっているうちに、「花を買う人が増えたら戦争がなくなるんじゃないか」って本当に思い始めて、花を買う人=心に余裕のある人を増やせばいいじゃん!って。そしてそういう職業って他にあんまりないことに気づいて、そこからかな、みんなを幸せにするっていう想像をしながら、これはいよいよ本気で会社を立ち上げて花屋をやっていくぞってなりました。その時には自分の家族もできていたので、賃貸で鹿児島市内に住むより、出水に帰ってやろう!となって今に続いている感じです。
※仕入れたコルクやサボテンのレザーを使って革製品のオーダーメイド製作なども行います。
衣食住に加えて心を満たす
普段の営業に加えて、これからはワークショップやイベントにも力を入れていきたいです。正直イベント出展は大変なんだけど、それは今自分に余裕がないから。ワークショップやイベントにどんどん人を呼んで盛り上げたい。身近に味噌を作れる人、醤油を作れる人、火を起こせる人、飲める水を作れる人、他にも色んな特技を持った人たちがいる。これからの時代、特に子どもたちの世代にそういったイベントを通じて何か感じてもらいたいと思っています。
今、花って仕入れ値もものすごく高い。それに利益を乗せると当然それ以上の価格になる。必要な人は買うけど、そうじゃない人は買わない、というよりも買えない。そうすると花屋そのものになりたいという人もいなくなる。もっと言えば大人になりたくない、という子供達が増える。必ずしも「花を売る」ということに固執するんじゃなくて、原点に戻って衣食住に当てはまらないからこそ、心に栄養を与えられることは何か?ということを考えていきたいと思っています。
出水そしてLifenseについて
—–出水はどんなところですか?
自然もあり、発展もしつつあるが、突き抜けて何かあるわけでもない。つまりそれが良い(のかな?)
—–出水市あるいは北薩のおすすめスポットは?
川端通り(居酒屋)
—–読者の方に一言お願いします。
結局やるか、やらないかの選択になっていくので、やった後悔を選んでも後悔にはならないかな。行き当たりバッチリ。
DATA
Kurk PLANT LEATHER <Instagram>
@kurkplantleather
写真:柏木 直紀
文章:松島 晋也